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+一番のプレゼント+


木々は紅に染まり。
吹き抜ける風は寒気を帯び、冬の足音が間近に迫っていることを知らせる。
さくさくと、落ち葉を踏みしめる心地よい感触を確かめながら、レオンとプリシスは銀杏並木を、並んで歩いていた。

「あ〜寒くなってきたね〜!」

プリシスは、そう言うと、両手で口を覆い、”はぁ〜”と息を吐き付けた。
微かではあるが、白色の気体が漏れ、そしてすぐに霧散した。

「全くだよ・・・」

”寒い”と言っている割には元気そうなプリシスに対し、レオンは心底寒そうだ。
両手で身体を抱え込むようにして震えている。
ただでさえ白い顔がさらに白くなって、今にも死にそうである。

「レオンは、本当に辛そうだね〜・・・やっぱり寒いのが苦手なのかな?」
そう言うと、プリシスはレオンの頭に手をやり、
「なんとかは炬燵で丸くなるって言うしね♪」
レオンの頭にぴょこんと生えている、ふさふさな物を障った。
「うわあああぁぁっ!冷たい!!」
ふさふさなそれは、ぴくぴくっと動いてプリシスの指を弾く。
と、同時に、レオンは両手を振り上げて抗議する。
「いきなり触らないでよ!それに、ボクは猫じゃない!!」
「ごめんごめん♪猫耳じゃなくて犬耳だもんね♪」
「そういう問題じゃない!!!」
白かった顔を紅潮させて、プリシスに食ってかかろうとしたレオンだったが、びゅ〜!っと、一際強い風が吹き抜けると、慌てて両手で身体を抱きしめた。

「うぅ”〜・・・さぶひ・・・」

しゃくではあるけれど、正直なところ、本当に炬燵で丸くなりたい気分だった。

―――敵と戦って勝つためには、常に自分を有利な状態に置いて物事を進めて行かなければならない。
―――であるからには、この自分が不利な状態で戦いを挑むことは合理的では無い。
―――したがって、この場は我慢することが肝要である。
―――決して負けたわけでも逃げるわけでも無い。
―――後々の戦いで勝つための、戦略的な決断なのだ・・・

「しょうがない・・・今日のところは見逃してあげるよ」
レオンは頭の中で、論理を展開し結論づけた。
もちろん、自分に都合の良いように。
「ん?なんだ、つまんないのー」
いつものように、レオンをからかって身体を温めてようとしたプリシスにとっては拍子抜けである。
「ボクは、プリシスみたいにガキじゃないんだよ」
「はいはい、ホント、可愛くないね〜」

しらばく二人して無言になる。
枯れ葉が二人の間を舞って行った。

「そうか〜、そういえば、もうあと一ヶ月ちょっとで正月なんだよね〜・・・早いものだね」
炬燵と猫で思いついたのか、レオンがつぶやく。
「そうだねえ〜なんだかあっという間の一年だったね〜・・・」

―――あれから一年

レオンとプリシス、そしてレナの三人は、十賢者との戦いが終わったあと、地球に留学することを決心した。
最初は、全く違う環境ということもあり、何もかもが目新しくて、戸惑うことばかりだった三人だったが、気が付けば地球での環境にも慣れ、地球での生活が彼らにとって「普通」になっていた。
もちろん、エクスペルのことを忘れたわけでは無い。
エクスペルは、自分達にとっては「故郷」という大切なものであり、かけがえの無いものなのだ。
だが、大切ではあるけれど、今は地球が自分達のいるべき場所なのだ、という気がしていた。
自分自身の成長のため。

そして、大切な人と・・・

「・・・と思っているのはボクだけなのかな」

「何?」
「なんでもないー」
「何よー」
「いや、こうやって、何事も無く日々は過ぎていくのかな〜って・・・」
「ん〜でも、レオンには大きなイベントがあるじゃん?」
「ん?大きなイベント?」
きょとんとするレオン。
「うん、そうだよ。って言うか今日だよ」
「今日?何かあったっけ?」
「レオン・・・本当に忘れてる?」
「何を?」
冗談抜きで、わかっていないのだとわかると、プリシスはふぅ、とため息をついて、ゆっくりと問いかける。
「今日は、何月何日?」
「11月25日だけど・・・何かあったっけ?クーベルタン男爵がオリンピックの復活を提唱した日としか・・・」
「・・・誰よそれ」
心底呆れた表情でレオンを見やる。
その顔は、”紙一重なんだよね”と、言っていた。
一方のレオンは、顎に手やり、思考を巡らせているようだ。
日独防共協定がどうのとつぶやいている。
「はぁ・・・もういいよ。そろそろ準備できてるはずだから、早く帰ろう」
「準備?何の?」
「いいからっ!ほら、早くっ!!」
「わっ!」
レオンの手を掴み、走り出すプリシス。
それに引きづられる格好でレオンも走り出す。
それは、はたから見れば、仲の良い姉弟のように見えた。
その評価を本人達が聞いてどう思うかはともかく・・・。
「風が当たって寒いよ!」
「走っているうちに暖かくなるよ!」
結局、いつもプリシスのペースになるのだった。
乾いた爽やかな秋の風が二人を運んで行った。



パンパーン!!

「レオン誕生日おめでとう!!」
「レオン誕生日おめでとう♪」

レオンとプリシスが帰宅して居間に入ると、クラッカーの音と男女の祝福の声に迎えられた。
クロードとレナだ。
「あ・・・」
「そ。今日はレオンの誕生日だよ。本人が忘れてどーすんのよ!」
プリシスに、バシッと背中を叩かれてレオンはヨロヨロと前に押し出される。
レオンは、少し困ったような顔をした後、照れくさそうにつぶやいた。
「えっと・・・ありがとう・・・」
「ふふ、どういたしまして♪レオンのために奮発して作ったんだからね♪」
テーブルには、デコレーションケーキと、豪華な料理が所せましと並べられていた。
「凄いレナ!これ全部レナが作ったの?」
「そうよ、頑張ったんだから♪」
「でも、ちょっと多すぎじゃない?」
「そうかしら?大丈夫でしょ、育ち盛りなんだから♪」
「どっかで聞いた話だな・・・げふっ」
口を挟もうとしたクロードの鳩尾に、レナの肘鉄が入る。
そんな、皆の楽しげなやりとりを眺めていたレオンが、感慨深げにつぶやく。
「本当にありがとう。ボク、今まで、こんな風に誕生日を祝ってもらったことなんか無かったから・・・」
レオンの両親は研究に忙しくて、誕生日を祝う暇が無かった。
レオン自身、天才少年と呼ばれ、周囲の期待に答えようと頑張るあまり、自分のことを振り返る間が無かった。
そんなことが重なり、いつしか自分の誕生日すら忘れてしまっていたのだ。
「そうか・・・じゃあ、13年分祝わないとな」
にこっとクロードが笑いかける。
「そうよ。さ、それじゃあ早くパーティ始めましょう♪」
「うん♪」
レオンの顔に満面の笑みが広がった。


「それじゃあ、灯り消すよ〜!!」
そう言って、プリシスが部屋の明かりを消し、部屋が暗闇につつまれる。
と同時にケーキに立った、13本のろうそくの火がその存在感を増す。
ゆらゆらと揺らぎ、部屋を紅く照らすその様子はとても幻想的だ。

ハッピバースデートゥーユー♪
ハッピバースデートゥーユー♪
ハッピバースデーディーアレーオーン♪
ハッピバースデートゥーユ〜〜〜♪

クロード、レナ、そしてプリシスの三人が歌う。
微妙にずれているのがなんだかおかしくて、でも嬉しくて・・・レオンの心に染みていった。
「さ、レオン、火を消して」
レナがささやく。
「う、うん・・・」
レオンは、”ふぅ〜”と息を吹きかけ、一息に全ての火を消した。
「誕生日おめでとう、レオン」
再び灯りが点り、拍手と共に、口々に祝福の声がかけられる。
「ありがとう」
レオンは、やはり少し照れながらそれに答える。

「はい、これ、レオンへの誕生日プレゼントだよ」
そう言うと、クロードは、ピンクのリボンで結ばれた四角い箱を取り出し、レオンに渡した。
「ありがとう!開けてもいい?」
「いいよ、開けてごらん」
リボンを解いて箱を開けると、そこにはレオンの頭くらいのピンク色の物体・・・バーニィ人形が入っていた。
「わぁ〜可愛い♪ありがとうお兄ちゃん!」
「みんなで選んだんだけど、気に入ってもらえたなら良かった」
レナとクロードは満足そうに微笑んだ。
プリシスも笑顔ではあったが、何かを考えているような複雑な表情をしていた。
「どうしたの?プリシス」
「え?!あ、ううん、なんでもないなんでもない♪」
慌てて手を振る。
「・・・・・・?」
皆不思議そうな顔をしたが、それ以上は特に聞かなかった。


プレゼントの贈呈が行われた後は、クロードがいることと料理が豪華な点を抜かせば、
普段の生活と変わらない、けれどとても幸せな時間が過ぎていった。
レオンやプリシスの学校での生活。
クロードの軍での活躍。
レナの料理の腕前の話・・・
話は尽きなかった。

ただ、プリシスだけはどことなく上の空なところがあった気がしたが・・・



楽しい時間はあっという間にすぎ。
気が付けば、夜遅くまで話込んでしまっていた。
あれだけたくさんあった料理の数々も綺麗に無くなっていた。
「それじゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」
そう言って、クロードが席を立つ。
「あ、私そこまで送って行くわ」
レナも席を立つ。
「じゃあボクもふぐっ?!」
「じゃあ、アタシ達は後片付けをしておくね♪」
喋ろうとしたレオンの口を塞ぎながらプリシスはそう言った。
「そう?じゃあお願いね」
そう言うと、レナとクロードは出て行った。

「・・・・・・ぷはっ!何するんだよプリシス!」
プリシスの手からやっと開放されたレオンが抗議する。
「レナとクロード、会うの久しぶりなんだよ」
そう言うと、プリシスはウインクした。
「あ・・・」
プリシスの云わんとすることがようやくレオンにも理解できた。
プリシスは、クロードとレナを二人きりにさせてあげたかったのだ。
クロードとレナは恋人。
レオンにとっては、まだ知らない大人の世界がそこにはある。

(でも、ボクだってホントは・・・)

「それとね・・・」

プリシスの声にハッと、顔を向ける。

「それと?まだ何かあるの?」

「ん〜と・・・」

目を逸らせるプリシス。
何やら言い辛そうな様子である。
いつもはっきり言うプリシスにしては珍しく口ごもっている。

沈黙。

(な、なに・・・?)

そんなプリシスのいつもと違う態度に、何故かドキドキしてしまう。
呼吸するのも息苦しい感じがする。
短いけれど長い時間が流れたあと、プリシスは何か決心したように切り出した。

「レオン、ちょっと来て」
「え?」
「いいから」

そう言って、半強制的に連れて来られたのはプリシスの部屋。
元々レオンがそんなに入ることは無いが、ここ数日は『絶対に入らないように!』とプリシスから強く言われていた。

(それが、今はプリシスの部屋に二人きり・・・)

レオンの鼓動は否応なしに速まっていた。
「ちょっと目を瞑っていて」
「なんで?」
「いいから!!」
有無を言わせぬ迫力にレオンは目を瞑る。


目の前に広がる闇。

トントントンッと、プリシスの歩く音。

視覚が閉ざされたため、聴覚が敏感になる。

(な、なんだろう・・・)

ドクン・・・ドクン・・・

トントントン・・・トン。

足音が間近で止まった。

ドクンッ!

高鳴る鼓動。

(まさか・・・)

ドクンッ、ドクンッ、・・・

微かに漏れるプリシスの息遣い。

(まさかまさか・・・!!)

ドクンッ!ドクンッ!

何かが目の前に近づいてきて・・・

ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!!




ぴとっ


「・・・・・・えっ?」

予想より遥かに温度が低い物が顔に当たって、レオンは目を開ける。
目の前には青くて丸い物体・・・。
「無人君・・・?」
しかし、無人君には無いものが”それ”には付いていた。
猫耳である。

「バーニィのアレとは別に、私からのプレゼント」

そっけなくプリシスが言う。
その横顔には赤みが差していた。
「一応レオンの言動や思考パターンを単純化してインプットしてあるんだよ。名付けて『無人君レオン号』。作るの大変だったんだからね!!大事にしてよね!!」
プリシスは、そう一気にまくし立てると、ぷいっと、顔を背けて黙ってしまった。
「えっと・・・」
レオンはレオンで、想像と現実のギャップにまだ頭が混乱していて、”何が何だかわからない”という様子である。
二人の間を奇妙な沈黙が流れる・・・そんな時だった。
レオンの腕の中にいた無人君レオン号が、ぴょ〜ん!と飛ぶと、プリシスの頬にキスをしたのだ。
「あ」
「あっ」
さらに、無人君レオン号は、その猫耳をプリシスにすりすりと擦り付ける。
一瞬、唖然としていたプリシスだったが、
「・・・ぷっ、あはははは!全く可愛いなぁ」
そう言って、無人レオン号をぎゅっと抱きしめた。

「・・・・・・」

その様子を無言で眺めていたレオンだったが、不意に一歩踏み出す。
その顔は、先ほどのきょとんとした顔では無く、一つの決心をした顔だ。
さらに顔をプリシスのそれに近づける。
プリシスは、無人君レオン号に夢中になっていて気付かない。
瑞色の髪の先が、栗色の髪に重なり・・・




チュ・・・


「・・・ありがとう、プリシス」

「・・・・・へ?」

今度は、プリシスがきょとんとする番だった。
何がなんだかわからないという顔で固まっている。
十数秒の時が流れ、ようやく何が起きたのかを理解した。

「こ、こら〜!!レオン〜〜〜〜!!!!」

耳まで真っ赤にして抗議する。
一方のレオンはしてやったり、という表情だ。
「ごちそうさま、プリシス♪一番欲しいものを貰っちゃった♪」
「ごちそうさまじゃな〜い!!アタシは、無人君レオン号をあげるつもりであって、そんなのあげるつもりは・・・」
「そんなのって?」
「そんなのって、だから、つまり、き、き・・・う”〜・・・レオンのバカぁあああ!!!


今日からレオンはティーンエージャー。
その記念すべき日に、記念すべき大人への第一歩を踏み出したのだ。

外を、木枯らしが、ヒュ〜ン!ヒュ〜ン!と、立て続けに吹き抜けていった。
まるで、二人のやりとりを笑うかのように。


Fin