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+月灯+


〜第一章〜


ピカッ!ゴロゴロゴロ・・・・・・
まばゆい光が視界を覆い、雷鳴が辺りに轟く。

「きゃっ!」

その度に、悲鳴を上げては耳を塞いでいる少女がいた。
布団を頭から被って震えている、その少女の名は”ソフィア”という。

フェイトをリーダーとする一行は、今宵、ペターニの宿に泊まっていた。
普段、夜更けまで賑やかなこの街であるが、突然の激しい雷雨に襲われ、多くの人が家の中に駆け込んでしまった為、今は人通りも無く、閑散としている。
フェイト達も例外ではなく、雨でびしょびしょに濡れてしまい、やむなく早めに宿を取ることにしたのだった。

「はぁ・・・あんな事があったばかりなのに、ついてないなあ・・・」

大きな溜息をつくソフィア。
”あんな事”とは、FD界での一件。
自分達は、他の誰かによって、”作られた”存在であるという事実。
あれ以来、皆、表面上は普通にしていたが、どことなくぎこちない雰囲気が漂っていた。

「作られた存在・・・か・・・」

こうして、目の前にあるもの。自分の身体。
そして、心までも作り物だというのだろうか。
だとしたら、自分は何の為に生きているのだろうか?
そもそも、”生きている”とはどういうことなのだろうか・・・?

ピカッ!!ガラガラガシャーン!!!

「きゃああっっ!!」

今度は、光と一際大きな音が、ほとんど同時に襲ってきた。
かなり近い。

「はぅ〜・・・眠れないよぅ・・・」

瞼をぎゅっとつむり、布団をさらに強く握り締める。

雷は、昔から苦手だった。
耳をつんざくような轟音。
いつ襲ってくるかわからないという恐怖感。
はっきり言って、生きた心地がしない。
それでも、誰かが傍にいてくれれば、だいぶ違うのだが・・・

(そういえば、昔もこんなことがあったな・・・)

ソフィアは、ふと、昔の一場面を思い出した。


「えぐっ・・えぐっ・・・」
可愛いネコのぬいぐるみを抱いたまま、泣きじゃくる少女。
「どうしたんだ?ソフィア」
いくらか年上の少年の声。
「あのね、あのね、ピカッ!てね、ガシャーン!ってね、怖くてね、それでね、・・・」
早口にまくしたてる少女。
「・・・雷が怖くて眠れないのか?」
優しく確認する少年。
「・・・・・・うん」
少女は、こくり、とうなずいた。
「そっか・・・よし、わかった。今日は一緒に寝よう。・・・・・・だから、もう泣くな」
少女の頭を撫でる、少年の暖かい手。
涙が止まり、少女の顔にふっと笑顔が戻る。
「うん!ありがとう・・・・・・お兄ちゃん」


(・・・”お兄ちゃん”か・・・そう言えば、昔はそう呼んでたっけ・・・)

「まだ・・・起きてるかな・・・フェイト」

ソフィアは、しばらく考えこんでいたが、意を決っしたように布団を退けると、枕をかかえたままベッドを下り、ドアに向かって恐る恐る歩き出した。



ピカッピカッ!

先ほどとは別の一室。
まばゆい光に照らされ、青髪の青年の姿が見えた。
ベッドに横になってはいるが、目は開いているようだ。

ゴロゴロゴロ・・・

遅れて届いた雷鳴を背に寝返りをうつと、ふぅ、と青年は溜息を着いた。
シャワーを浴び、床についたのは良いのだが、色々考えてしまって中々寝付けない。
ここ最近、そんな状態が続いている。

遺伝子操作によって得られた、物体を消滅させる力。FD空間の存在。
そして、自分達が実は他の者によって”作られた”存在であるという事実。
それら受入がたい事柄が立て続けに訪れた。
戦いの連続で、考える余裕などない時はまだ良いのだが、こうやってゆっくりする時間があると、逆に色々考えてしまう。

(有り得ない話じゃない)

実際に人工知能のプログラムを作った経験からそう思った。
推論プログラム。自動プログラム作成プログラム。
彼らは、自分達と同じように考え、同じ言葉を話し、自分達と同じ感情表現をする。
人間だって、全ての命令、行動はニューロンなどを媒体とする電気信号によって行っている。
その回路が複雑かつ大量なだけで、人間もコンピュータも本質的には同じと考えることもできる。
だから、当然、同じような仕組みを作ってやれば、同じようなものもできるのだ。
そこには、「時間」という概念や「生」と「死」を持ち込むこともできる。
なんてことはない。
「時間」というものを「作って」やれば良いし、「生」と「死」を「定義」してやれば良いだけのことだ。

そう・・・全ては”作り物”なのだ・・・。

だけど、「心」だけは作ることができなかった。
あれだけ卓越した科学技術を持ちながら、「心」の仕組みだけは未だに解明できていない。
人類が誕生して、数百万年経っているというのに、未だに自分達のことすらわかっていないのだ。
好きな人と結ばれれば嬉しい。親しい人が死ねば悲しい。
太古の人々も、現代の自分達も全く同じことで悩んでいる・・・。

そんな「心」を、FD界の人々は解明したというのだろうか?
自分達のこの心までも、やはり”作り物”なのだろうか・・・?

(アミーナ・・・・・・)

この街には、そういう名の少女がいた。
最初に会った時は、ソフィアかと思った。
さらさらな亜麻色の髪。くりくりとした人懐こそうな大きな瞳。
華奢で、強く抱き締めれば折れてしまいそうな・・・そんな雰囲気までもが、自分の幼なじみと、うり二つだった。

―――彼女はもういない

彼女は、死んだ。
愛する人の後を追うようにして。

あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

ベッドに横たわる、ディオン。
そして、その手をしっかりと握り締めたまま、二度と開くことの無かった少女の瞳。
悲しくて、苦しくて、心が張り裂けそうだった。
だけど、どんなに泣いても彼女達は、アミーナは戻ってこない。
永遠に失われてしまった、あの優しい笑顔。
その姿が、自分の幼なじみと重なって・・・

―――いやだ!

―――僕を置いていかないでくれ!

―――僕を一人にしないでくれ!!


――――――ソフィア!!!


あの時、気付いた自分の本当の気持ち。
それまでは、単なる幼なじみか、可愛い妹くらいにしか思っていなかった。
思っていないつもりだった。
だけど、それは違っていた。
アミーナという、分身を失って・・・初めてわかった。

無邪気に笑う、あの明るい笑顔。
ちょっと拗ねるような仕種。
ぴたりと寄り添う、柔らかく暖かい温もり・・・。
そんな、何気ないものが自分にとって、どれだけ大切だったことか。
その存在が、どれほどかけがえのないものであったのか・・・あの時初めてわかったんだ。
そのアミーナ達の死も、ソフィアへのこの気持ちも、作り物だというのだろうか・・・?

―――違う

―――この気持ちは、決して作り物なんかじゃない

―――――――僕は、ソフィアのことが・・・


・・・こんっ

「?」

ふと、何かを叩く渇いた物音がしたような気がした。
じっと耳をすませる。

こんっ・・・こんっ・・・

やはり、音がする。遠慮がちな、小さな音。
音は、ドアから聞こえてくる。
誰かがノックをしているようだ。

(こんな時間に・・・誰だろう・・・?)

フェイトは、ベッドから下りると、ドアに向かって歩いて行った。



常夜灯が燈るだけの薄暗い廊下。
皆寝静まっているためか、時折落雷の音が聞こえる以外は、不気味なほどに静かだ。

コンッコンッ

そんな静寂の中、渇いた音が微かに響いた。

(フェイト・・・もう寝ちゃったかな・・・)

先ほどから、数回ノックをしているが、反応が無い。
軽く叩いているので聞こえないのかも知れないが、とは言っても、大きな音を立てるわけにもいかない。

(・・・これで反応がなかったら諦めよう)

そう思い、最後のノックをしようとしたとき。

「誰?」

という声が、ドアの向こうから返ってきた。

「あっ、フェイト・・・私だけど・・・」
「・・・ソフィアか?どうした?」
小声で聞き取り辛かったはずだが、フェイトはすぐにソフィアとわかったようだ。
「あの・・・」
「あ、ちょっと待ってろ、今ドア開けるから」
ガチャガチャッという音とともにドアが開き、中から青髪の青年が出て来る。
「どうしたんだ?ソフィア。こんな時間に・・・」
戸を開けたまま、フェイトが再び問い掛ける。
「あ、うんとね・・・・・・」
枕をきゅっと抱き締める。



「眠れなくって・・・・・・」
うつむき加減に答えるソフィア。
気恥ずかしさのためか、頬に紅がさす。
そんなソフィアの様子を、しばらく無言で見つめるフェイト。
だが、ふいに”ふうっ”と溜息をついた。
「・・・そういうことか。お前、雷苦手だったもんな。」
半ば呆れたように微笑む。
「入れよ」
そう言うと、ソフィアの背に手をやり部屋に入るよう促した。
「うん・・・・・・ありがとう」
ソフィアの顔に、笑みが浮かんだ。

ギィ〜〜〜〜〜〜バタンッ

廊下に、再び静寂が訪れた。


<次回予告>

「・・・・・・ソフィア?」
「・・・・・・・・・・・・」
身体と身体が触れる感触。伝わる体温。
ソフィアはフェイトの腕の中にいた。