秋の柔らかな風が落ち葉を散らす季節。

 

僕は今日、少年から青年へと変わる。

 

 

会えた

 

 

 

 

 

 

「レオン、ハッピーバースデー!!」

 

朝、目覚めてリビングに入ると、プリシスの大きな声が突然にレオンに降りかかった。

 

パーン!

 

「わッ!」

 

続いて放たれたクラッカーの音と、ダブルで衝撃を受けた。

 

「お誕生日おめでとう、レオン」

 

「おめでとう」

 

レナとクロードからも、口々にお祝いの声をかけられ、少し照れくさそうにレオンは笑った。

 

「ありがとう、みんな」

 

嬉しさと、慣れない祝福のよる照れと、色んな気持ちがレオンの心を交差する。

 

朝からのバースデーパーティーは、盛大とはいえないものの、温かみのある、優しいものだった。

 

レナの手料理がズラリと並べられたテーブル。テーブルの中央には、レオンの好きな白と蒼の花。

 

ソファーに並べられた、プレゼント。

 

 

全てが、いつの日か夢見ていた光景だった。

 

小さい頃から『天才』と呼ばれ、研究所の最高責任者として生きてきた。

 

嫌じゃなかったけど、でも、時々一人になると寂しかった。

 

普通の子みたいに、はしゃいだり、喜んだりすることは、許されなかった。

 

ポーカーフェイスだけが自分をつなぎとめていたのかもしれない。

 

 

「ホントに、ありがとう」

 

そう言ったレオンの表情は、今まで見たどんな顔よりも柔らかで、穏やかだった。

 

そして、少年に戻ったかのような屈託のない笑顔だった。

 

「さぁ、パーティーを始めましょ!」

 

レナの声で、皆は席につくと、楽しく話をしながらレナのお手製料理を食べ始めた。

 

「おいしい!」

 

クロード、レオン、プリシスは、ほぼ同時に声を上げた。

 

「レナ、美味しいじゃん!腕上げたね〜」

   

「そう?レオンの誕生日だから、張り切っちゃった」

 

レナはそう言うと、優しくレオンに微笑んだ。

 

 

 

 

「美味しかったよ〜。ごちそうさま!」

 

プリシスはパチンと手を合わせて言うと、満面の笑みを浮かべた。

 

レナはプリシスの食器をキッチンへ運ぶと、こう小さく呟いた。

 

「レオンも今日で16歳ね・・・」

 

小さな声ではあったが、クロードはそれを聞くと、小さく頷いた。

 

「もう、大人だな、レオンも」

 

クロードとレナ、2人はまるで弟を見るような、優しい瞳でレオンを見つめていた。

 

「何かつまんないなー。すっかり大人っぽくなったし。」

 

ぷくっと、小さく頬を膨らますプリシスに、レオンは「当たり前だよ」と突っ込む。

 

「好きな人もできたしね〜」

 

プリシスは悪戯っぽい口調で、得意気に言った。

 

「なっ―!」

 

レオンが、途端に顔を赤くした。

 

「一途に待ってるなんて、レオンらしいよ」

 

プリシスは笑うと、レオンの肩をポンポンと叩いた。

 

レナとクロードは顔を見合わせると、心配した表情でレオンを見た。

 

「あれからもずっと・・・待ってるの?」

 

 

エディフィスでの冒険が終わった今でも、レオンはリヴァルのことを想い続けている。

 

それが、叶う恋なのか、それとも叶わない恋なのか、誰にも分からない。

 

それでもレナも、クロードも、プリシスも、その恋が奇跡とともに叶うということを祈っている。

 

リヴァルがレオンとの約束どおりに、帰ってくることを。

 

 

「・・・うん。僕はリヴァルと約束したからさ。ずっと待ってる、って。それに、リヴァルはきっと帰ってくるよ」

 

確信めいた発言に、一同は驚いたように顔を見合わせる。

 

「予感がするんだ。運命の・・・予感が」

 

 

 

 

 

 

バタン。

 

レオンはパーティーが終わると自室に入り、ドアを閉めた後に、小さなため息をついた。

 

「リヴァル・・・・」

 

あれからもう、2年の月日が経とうとしていた。

 

それでもまだ、彼女は帰ってこない。

 

そして、リヴァルが帰ってくるなどという、奇跡のようなことを今でも信じ続けている自分がここにいる。

 

「なにが運命の予感・・・だよ」

 

スッと力が抜けたように、ドアにもたれていた体はずり下がり、ストンと床にお尻がついた。

 

「運命なんて・・・本当にあるのかな」

 

そう呟いて、頭を抱え込んだ時だった。

 

「・・・・・ん」

 

―妙な、胸騒ぎを感じた。

 

でも、何故か悪い事のような気がしない。

 

ただ、無性に気になる何かが、レオンの心を支配し始めた。

 

「何?何が・・・あるの?」

 

レオンは、自分に問い掛けるように呟いたが、答えなど、知るはずも無い。

 

・・・その代わりに、レオンは何か気配を感じていた。

 

そこへ行けば、きっと何かが分かる。

 

レオンは服に着替えなおすと、クロードたちを起こさないように静かに家を出た。

 

心に直接語りかけるように感じる、何かを探して。

 

外に出ると、しばらく前からずっと降り続いている雨と、冷たい秋の風がレオンの肌を突き刺した。

 

「寒い・・・」

 

傘をさしていても、雨はレオンの腕にあたり、服を冷たくにじませた。

 

11月になると、こんなにも寒いものなのかと、少し驚いた。

 

「もう・・・冬が近いんだ」

 

レオンは呟き、手をこすり合わせて手を温めた。

 

歩きつづけていると、ふと、近くにある公園が目に付いた。

 

最近新しくできたと、レナから話を聞いていた。

 

散歩道や、カフェなどがあり、かなり大きい公園で、今この辺りでは注目を集めている。

 

「そういえば、来た事なかったな・・・」

 

公園の入り口で足を止めると、大きな噴水が目に入った。

 

『噴水があってね、恋人のデートスポットにはピッタリなんだって』

 

レナがそんなことを言っていたような気がする。

 

そして、それと同時に雨の中を立ち尽くしている女性が目に入った。

 

灰色の少しウェーブがかった長い髪が、雨に濡れてキラキラと光っていた。

 

白いワンピースは、ぐっしょりと濡れて、裾から水滴がしたたっている。

 

どこか遠くを見つめるように空を眺めているその女性は、どこか悲しげな雰囲気を身にまとっていた。

 

レオンは不思議な魅力を感じたのと同時に、彼女の方へと無意識に走り出していた。

 

そして、何の戸惑いもなく、スッとさしていた傘を彼女にかぶせる。

 

「風邪ひくよ」

 

後ろから見た彼女の姿は、とても儚げだった。

 

でも、どこか感じたことのある優しい温もりを感じた。

 

そう、懐かしい、あの温もりを。

 

「あっ、有難うございます!」

 

ハッと我に返ったかのように、彼女は笑顔を浮かべて振り返った。

 

その笑顔は、先程のとは別人のように柔らかな表情だった。

 

―そして、気付いた。

 

「リ・・・リヴァル・・・!!!」

 

「!!レオン!?レオンですね?」

 

リヴァルは、顔を手で覆うようにして、必死で涙を抑えながらレオンを見た。

 

「帰って・・・来たの?」

 

まだ信じられないという気持ちが、はぎれの悪い言葉を生んだ。

 

言葉が、うまく出てこない。

 

ただ、ただ、目の前にいる彼女を見つめていた。

 

この目に、彼女を残しておきたかった。

 

・・・また、いなくなってしまうのでは、という不安が拭い切れずにいたからかもしれない。

 

「レオンッ!!」

 

リヴァルは、精一杯の笑顔を浮かべて、レオンの胸へと飛び込んだ。

 

「帰って・・・来れたんですね」

 

自分でも、まだ状況を把握できていないのか、リヴァルは自分に確かめるかのように言った。

 

レオンは、顔を林檎のように赤くしながらも、そっとリヴァルの背に自分の手を当てた。

 

『触れている』そんな当たり前の感触が、涙が出るほどに嬉しかった。

 

「ただいまです、レオン」

 

リヴァルは顔を上げて、レオンに向き直ると、凛とした口調で言った。

 

「リヴァル・・・なんだね。リヴァルが帰ってきたんだよね」

 

レオンは止まらない涙を拭う仕草も見せず、リヴァルに確認するように言った。

 

「はい、私はリヴァルです」

 

リヴァルは嬉しそうな笑顔を見せた。

 

今まで見たどんな笑顔よりも、輝いていた。

 

―『リヴァル』が帰ってきたんだ。

 

声にならないような気持ちがレオンの胸にわき起こった。

 

―リヴァルは、あの日の約束通り、僕のところに戻ってきてくれた。

 

こんなに、こんなに近くに、君がいる。

 

「おかえり、リヴァル」

 

レオンはやっとのことでそう言うと、もう一度リヴァルを自分の胸に抱き寄せた。

 

ガラスを触るように、そっと、抱きしめた。

 

「ずっと・・・待ってたよ」

 

そう呟くと、自分の胸の中でリヴァルが小さく「ありがとうございます」と呟いたのが分かった。

 

その声はかすかに震えていて、か弱くて、守ってあげたくなるような声だった。

 

レオンは、リヴァルの肩を持って、そっと自分の胸から離れるようにすると、リヴァルと向き合った。

 

「リヴァル、僕も君のことが好きだよ」

 

照れくさそうに顔を赤く染めてレオンは言った。

 

「失いたく・・・ないんだ」

 

リヴァルのいなかった日々を思い出すだけで、胸が辛く締め付けられるようになる。

 

それでも、君の残してくれた『帰ってくる』という言葉を支えにしてきた。

 

いなくなって初めて、僕の中でリヴァルの存在がどれだけ大きくなっていたかを知った。

 

するとリヴァルも、頬を赤く染めて、そっとレオンの手を握った。

 

「私もです、レオン」

 

「私も・・・レオンのことが好きです。誰よりも、大切です。」

 

一つ一つ丁寧に言い添えられた言葉は、レオンの心に真っ直ぐに伝わった。

 

リヴァルの向日葵のような、太陽のような微笑みと一緒に。

 

「うん・・・ありがとう、リヴァル」

 

噴水の淵に腰掛けると、2人の姿が水面に映し出された。

 

笑顔で微笑む、レオンとリヴァルの姿。

 

端の方には、満足そうに笑っているクレセントムーン。

 

そして、リヴァルの灰色の髪の間から、クロスのピアスが2人の再逢を喜ぶかのように輝いていた。

 

 

 

 

一度は引き裂かれた運命が、またこうして、動き出す。

 

動き出した二人の運命の輪は、止まることなく動き続けるだろう。

 

死が二人を分かつその日まで。

 

 

ND

 


作成者:七星くるみさん